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6.内容等

文化財の保存修復を行う上で、何をどこまで、どうやって残すのかという問題は、理念と実際の両面から、本質的な問題である。文化財と一口で言ってもその範囲は極めて広い。今回は、4つのセッションで、建造物、木造彫刻、絵画、考古遺物を取り上げ、問題点の提示(話題提供)と質疑応答、討議を行った。

建造物については、近代建築の保存修復の問題点として、特に洋風建築の床材であるリノリウムの再現について、話題提供され、討議された。当初のリノリウムは明治時代に英国から輸入されたものであることが、調査の結果判明した。しかし現在では製造されていないため、英国に特注して製造した。既にほとんどが消滅していた当初材の材質、意匠にこだわるべきかどうかが議論となった。

木造彫刻については、後世の修理箇所をどう扱うのか、また後世の彩色を除去すべきかどうか、という全体に共通する問題が提示された。基本的に当初の状態に戻すべきというのが、全体の流れであった。

絵画については、例の一つとして、長谷川路可のフレスコ模写が上げられた。「修復の原則は、原画を損なわず、作品をできる限り元の状態に戻す。再修復に備えて除去の容易な材料を使用する」ということだが、この場合の原画とは何か、元の状態とはどういう状態か?が問題となる。「修復に当たっては作者の作品に対するコンセプトを保存し修復する」といわれるが、ものの修復とコンセプトの修復が同一であり得るのかなどが問題となった。

考古遺物については、金属遺物に付着していた有機遺物の痕跡が話題となった。鉄などの金属遺物に、布などの有機性遺物の痕跡が錆の形などにより残されていることがある。これは、考古学的に極めて重要な情報であり、詳細に調査することによって、有機遺物に関する多くの貴重な情報が得られる。従来の保存修復処理方法では、クリーニングや錆取りなどによって、これらの痕跡は消失してしまうわけで、発掘時の詳細な観察と、発掘後の保存処理前の多方面からの詳細な調査、分析、検討、考察が必要である。そのためには、種々の専門家間のネットワークの構築が極めて重要である。

 

 

 

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